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最高裁判所第三小法廷 昭和47年(行ツ)55号 判決 1974年4月09日

千葉県安房郡鋸南町竜島八六〇番地

上告人

有限会社

中山商事

右代表者代表取締役

中山渉

右訴訟代理人弁護士

木戸喜代一

千葉県館山市北条一一六四番地

被上告人

館山税務署長

内野正昭

右当事者間の東京高等裁判所昭和四六年(行コ)第八号更正決定処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和四七年三月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人木戸喜代一の上告理由一について。

原審の確定する事実関係のもとにおいて法人税法上本件山林の譲渡益は上告会社に帰属するものとした原審の判断は、正当として是認するに足りる。そして、法律上の概念につき各法令において常に必ずしも同一意義に解しなければならないものでないことは、明らかであるから、所論違憲の主張は前提を欠く。論旨は、採用することができない。

同二、三について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の挙示する証拠関係に照らして肯認するに足り、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、判決に影響を及ぼさない傍論に関するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江里口清雄 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 高辻正己)

(昭和四七年(行ツ)第五五号 上告人 有限会社中山商事)

上告代理人木戸喜代一の上告理由

原審判決は第一判決をそのまま認容しておるので、以下第一審の認容事項は、本書においては単に原判決と称する。

一、原判決は判決に影響を及すること明かな憲法解釈の誤りがある。

1 同一憲法下における法令の意義、解釈、適用についてはどの法令であれ同一に解義、適用すべき事は自明の理である。

(学説判例上争いはない所である)

2 然るに原審は上告会社の設立にあたり、訴外中山渉、中山きく、両名所有の宅地、田、畑、山林、家屋全部を有限会社法第七条三号の規定に依らず、且又民法上の譲為手続に依つていないのであるから、私法上は原告会社の所有に帰したとは解せられない。と認定し乍ら、山林についてのみは「本件山林の財産の引受けは資本充実の原則をやぶるものではないから、設立された同会社の所有財産として経済的にこれを帰属させ、利用収益してゐる事実が認められるときは、私法上の法律効果とは別個に事実上発生している経済的効果に対し、税法上、税を課することは許されると説示しておる。

3 然し乍ら法人税法、所得税法は共に所得について課税する法規範であるが、所得とは私法上(実質上)所得の生ずる根原が私法上正当な権原より発生したものである事を前提として規定(制定)されてゐるものである。(登記名義や帳簿上の記載に拘りはなく、実質上の権原に基くものである)

第一審で提出の乙第三号証によると農地が七筆存在するが、農地法第三条の規定によると商事会社は農地を取得することを禁じておる所である。然るに原審の論法で行けば、許される事になる。

4 要するに原審は私法と公法(税法)とでは同一の事実関係につき、私法では所有権帰属の効果は発生していないが公法上から之れを認容出来ると云う解釈であつて同一憲法下における法の解釈の統一を乱すものである。この解釈は判決に影響を及すことは明かである。

二、原判決は判決に影響を及すこと明かな法令違背の違法がある。

1 徴税事務の誤認は直に国民の財産に対し重大な損害を与える結果を招く事になる故に、その事務に当る者は厳格に且つ明確に証拠によつて之れを認定すべきである。(この事の主張は第一審の昭和四三年一月一六日付原告準備書面同年二月二九日付原告準備書面において主張しておいた所である)故に行政訴訟、特に税法訴訟においては、原告は実質上の被告である。

依つて被告において自ら為した認定事実が、実体法上(形式の如何に拘らず)正当であることの立証責任を負う可きである。(高根義三郎著行政訴訟の研究六一頁以下六九頁参照)

2 然るに原審は本件山林の売却代金六五六万円の内金三〇〇万円が昭和四一年五月三一日中山和子名義で千葉相互銀行に入金し、その金が原告会社の第二期総勘定元帳に同日付で仮受金として入金が記載されており、更にその内金一九九万円が千葉銀行勝山支店の中山和子名義に移し入金され、原告会社の確定申告書添付の預金内訳け書に記載され、中山和子名義の預金は原告会社の使用してゐる預金通帳であると認められる。

故に本件山林の譲渡所得は原告会社に帰属することが推察できる。と判断しておる。

3 然し、本件山林売却代金は六五六万円であるから、この金六五六万円の金銭が全部上告会社で使用された事の主張、立証は被告税務署長の責任である。然るに原審は、上告会社の立証が無いからその主張は認められないと認定しておる。

(第一審判決一七枚目裏(ハ)の項参照)

此の点立証責任分配の法則を誤つた違法があり破毀を免れないものである。

三、原判決は判決に影響を及すことの明かな審理不尽、理由不備がある。(民訴法第三九五条第一項六号)

1 第一審判決は本件山林売却代金六五六万円の内「金三〇〇万円を原告会社の仮受金として記載したのみでその余は事実を隠ぺいしており」第二審判決は、「中山渉が代表者たる地位を利用し、会計経理の杜撰、紛に乗じ右金員を便宜流用したに過ぎない」と認定しておるが

2 仮受金と記載した理由は、上告会社の預金通帳が無かつた当時、(会社設立前より、金融機関より信用を得るため中山渉、中山きく、中山和子三名別々の名義で預金し営業金と私生活費と混合して出入してゐたまま会社になつた後も使用していたので)本件山林売却代金の内金三百万円が奥村興業株式会社より入金したので、中山和子名義で預金したものであるが、計理事務を扱つた繁田亀吉は会社の金ではないが、通帳を会社と個人と混用していた関係で一応仮受金の科目にしたものである。仮受金は計数上の数字を合せる計算上の問題であり、未だ会社か個人が不明である為め付せられる科目である。

故にこの仮受金は何如に使用されたか即ち会社が使用したか、個人が使用したかを十分審理して明確にしなければ、会社に帰属した金であると云う事は判らない所である。原審はこの点十分審理を尽していない。

3 被告税務署長の主張、立証によるも、本件売却代金六五六万円が何時、如何様にして上告会社に入金し、原告会社代表者が流用しておると云う事実は現れていない。然るに原審は「本件入金関係及び使途が控訴人主張のような中山渉個人に関するものであつて該金員が控訴会社を介することなく直接に個人用に費消されたものとは未だ確認し難く、之れを認める証拠が無い。と説示しておるが、之れは証拠に反しておる。

即ち本件売却代金六五六万円の入金状況については第二審判決添付の別紙一、の123記載のとおりで之については甲第二一号証、(これは上告会社設立前に中山渉個人所有地の埋立費をこの代金の一部で相殺したものである)甲第三号証により金三〇〇万円は、奥村興業株式会社より中山渉個人が受取つておる事、その余の金三〇〇万円也は甲第八号証の一、より同第九号証の四まで及び甲第一〇号証並に第一審証人長田良の供述で明かである。即ち上告会社を介することなく奥村興業株式会社より中山渉個人に入金しておるものである。

この点は理由そ誤のそしりを免れ得ない所である。

4 上告会社は第一審において、昭和四三年一月一六日付準備書面にて中山渉所有土地二筆(竜島字推出八六三番、八六五番の六)と中山きく所有三筆(同字八六九番の一、同番の二、同番の三)が正当な手続で正状な価格で上告会社の所有に譲渡したものであると主張をしておつた。又館山税務署長は、本件訴提起後、中山渉、中山きくに対し右五筆の土地を会社の所有にしたと云う。譲渡所得を賦課して来た事も主張したが第一番では之れを否定したが、それは税務官が証人として「その徴収はしていない」旨の供述をしたからであるが、原審終結後の昭和四七年三月十一日に至り館山税務署長は中山渉に対し、昭和四一年一二月九日上告会社に対し、(原因昭和三九年九月一六日付売買にて)所有権移転登記を為した土地二筆の譲渡所得税、昭和三九年分として徴税の通知あり、本税金一四六、七〇〇円、加算税金七、三〇〇円、延滞税金一二九、六〇〇円、合計金二八三、六〇〇円也を支払え、支払わねば中山渉の所有動産を差押えする。と督促され昭和四七年四月三〇日より同年九月一五日まで六回に分割納付予定書を提出させられ約束手形六枚を振出し納付する事にした。第一回分は納付した。そうすると第一審判決の一三枚目裏一行目より一四枚目表四行目の間に、「固定資産評価額に一定の倍率を加える評価方法にすれば個人から会社に財産が移転した場合課税しない取扱いであることからこの様な方法が行われた」と認定して、本件山林は上告会社に引受けさせたものと云う結論と、そ誤を来たす事になる。

被上告人館山税務署長は、訴訟手続においては「本件山林を含む全所有土地は上告会社え課税しない方法で引受けさせたものであると主張し、そうでないと主張する上告会社の主張を認容せず、訴訟外においては、上告会社の主張を認めて中山渉個人に対し、上告会社名義に登記した土地の譲渡所得税を課すると云うことは、とりもなおさず、原審が上告会社や、中山渉の主張について十分審理を尽さなかつた事に起因するものである。

依つて原判決は破毀する可きである。

以上

(添付書類省略)

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